内方向と外方向 ~26回 おんな城主直虎~
前回一心同体でこころの通い合ったさまを見せつけておいて、今回ふたりが離れて行く感じ。なんだかなんだかムズムズする。
あらすじ
龍雲丸(柳楽優弥)が井伊の材木を取り返したことで、直虎(柴咲コウ)の謀反の疑いは晴れる。しかしその材木は数日後、今川の手によって気賀に運びこまれることになる。今川氏真(尾上松也)は商人の自治が許されてきた気賀に城を築き、家臣の大沢基胤(嶋田久作)に治めさせようとしているのだった。この動きに激怒した龍雲丸は、築城反対派とともにかく乱作戦に出る。混乱を鎮めるため、直虎は気賀に乗り込むが、民は築城賛成派と反対派に別れ対立を深めていた。そんな状況を打開しようと、直虎は気賀の商人たちと龍雲丸を集める。そして、反目し合う商人たちの本音を引き出すことで、互いの矛を収めさせるのだった。しかし、龍雲丸だけは築城に反対する姿勢を崩さない。直虎が訳を聞くと、龍雲丸はかつて両親が城を守って討ち死にしたと打ち明ける。井伊谷で顛末を聞いた方久(ムロツヨシ)は、大沢の代わりに井伊が気賀に入る事を提案する。
第26回「誰がために城はある」|あらすじ|NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』
今週の雑感
「誰がために城はある」 今週のタイトルそのままの回でした。
龍雲丸と直虎
前から思っていたのですが、義元亡き後もこの当時の今川というのは強大で、その力に抗ったところで待つのは死のみという、もうどうしようもなく理不尽な世界に彼らは住んでいるのですよね。
難癖つけられても、それに従うしかなくて、前回、直虎が策を講じて理と忠義と証拠をもって氏真に詰め寄っていくのがもう領主としての成長を見られてすごい…って思いました。
今回は、隣国との関係に行き詰まっている今川の、ある意味八つ当たりのような、なんだか政が思い通りにいかないし、塩留したのに、商人たち気賀で商ってて楽しそうだし、そんなら気賀も手に入れようかなと。商人が自分たちのために働いてまわして来た町なのに、突然気まぐれのように介入してくる武家の傲慢さ、理不尽さ。
そんな武家の身勝手さに最後まで異を唱え続ける龍雲丸が哀しく光っていました。そしてそれに引っ張られるように、自ら乗り込んで気賀の騒動を仲裁調整しようとする直虎。
ふたりの以下のやり取り。
直虎「徒に奪われることもなく奪わずとも済む。そなたが奥底で望んでおるような土地など日の本のどこにもないぞ。己で作りださねば誰も与えてなどくれぬ。それがわかっておるから龍雲党の旗を上げ、人を受け入れてきたのであろう。そなたはそなたなりに気賀をそうしようと励んできたのではないのか。ここで放り出してしまって良いのか。いきなり全て思い通りとはいかぬ。じゃが地道に望む方へと進ませていくという手はあろう。」龍雲丸「俺の親は城を守るって言って死んだんでさぁ。もうさきは見えてんだ。城ってのはな人を守るためにあるもんじゃねぇですか。それを守るために人が死ぬなんてどう考えたっておかしい。そんなもんは要らねぇんだ!」直虎「それは全く違うと思うぞ。田畑や野で狩られるものもある。城に逃げこみ命拾いしたものもあろう。城さえなければ助かるという話ではあるまい。その城を的に敵が攻めてくるか否か、不幸にも的となったとき、守りきれるか否かも城主の采配次第。城が悪いとは言い切れまい。」龍「じゃあ、あんたがそこの城主をやんのか。やったところで能書きのとおりできるのか。」直「それは…」
直虎が領主から城主になる為に通らねばならない通過儀礼として、城の持つ意味、誰かが誰かを支配下に置くことへの反論に自分の考えを持ち、表し、納得させられることを求められています。
龍雲丸という、武家にも国にもどこにも属さない人間の言うことなど、捨てておけばいいこと。政次が言っているように、対岸の火事。でも、そこを救い取ってなんとかしたいと考えるのが直虎の性分であることは初回から貫かれていることで、誰に対してもイーブンでフラットでフェア。
正に、その部分が直虎を直虎たらしめているわけで、今回、以前に持っていた(と思われる)龍雲丸への恋心から彼らを助けたいと思ってるわけじゃないんだと思うんです。
そこが罪と罰回のときと大きく異なっていて、恩を受けた者の血を見たくない、というレベルから、今川や周りの国、井伊外部の商人も全部相手に回して、なんとか皆が「奪う奪われる」ことのない世を作れないだろうか、と考え、こころを砕いていくところまで来た…
内向きと外向き
政次がまるで師として、内向きに「井伊を守る」という一点の為に直虎の持つ能力を引っ張り出した功労者だとしたら、龍雲丸は、外向きに「井伊だけではない、この世の中」をより良いものとしたいと思う、彼女の潜在能力をギリギリまで引き出すキーパーソンなのかもしれないなぁと。
そうやって考えると、前回、「井伊を守る」ただそれだけの為に、政次と二人三脚で、一心同体で切り抜けたこと、それがふたりの関係のやはりクライマックスだったのではないだろうか… なぜなら、直虎は、既にひとりで策を考え出し、実行に移し、申し開きの場でも、政次が助け舟を出そうと口を挟んだところ、最後まで聞かずに思いの丈を氏真にぶつけてました。
政次を追い越した… のか。
そうやって考えてみると、今回のふたりの関係の変化もわかってきます。最初に書いたムズムズも解消されそうな…?
印象的だったのは、政次が何回も釘を指して、気賀のことに首を突っ込まないよう(怒りも込めて)力説しているにも関わらず、直虎が着物を翻して走って行くあの場面。
政次のどうしても引き止めたい思いが、足で直虎の着物を踏むという行為で表されていました。つまづいて政次を見上げる直虎の顔が、以前、ふたりが反目し合って睨み合っているときのことを思い起こさせ。(また睨みも美しい…)
政次の気持ちは十二分にわかっていながら、内向きに(井伊に、そして政次の掌中に)留まってはいられないのが直虎の本質で、どうしようもなく外へ外へと。内向きの満足だけでは生きていけない、小さい金魚鉢の中では息ができずに死んでしまう大きな魚のよう…
踏まれた着物を脱ぎ捨て、信じた方へ、面倒な方へ。政次の手を放して。
同士のちからが最高点に達した前回から、もしかしたら、とうとう終わりの始まりが始まってしまったのかもしれない… 今回のふたりのすれ違いというか思いの平行線ぶりを見るにつけ、もうザワザワが続いてしょうがないです。
「良い結果であれば良いのですが…」と寂しく力なく微笑む政次がただただ悲しい。
何かが違う
それに合わせて、家臣たちもレベルアップ?之の字がキャンキャン言わずに落ち着き払っている。六左は苦手な武術の練習に勤しんでいる。方久なんて、最後、できる参謀のように直虎に進言している… そして政次は囲碁をはさんで直虎の前で今までにないリラックス顔…そして井戸端では突然感情を露わに。
いつもと同じなのは、中村屋の博太郎おじさんだけだよ… 「つまはじきにされました…」 見てると癒やされる…
武家と商人と龍雲丸のような流れ者全てが納得し、WIN-WINの関係が生まれる場所が果たして作れるのか。直虎は井伊を守りつつ、外部の者も満足させられる策を、今川に忠義を示しつつ気賀を手中に収める方法を見つけ出せるのか。
「己で作り出さねば」と龍に訴えかける直虎のお手並み拝見、といきましょう。
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