正解のない世界、きれいは穢い ~35回 おんな城主直虎~
蘇えりし者たち。龍雲丸の他にもたくさん蘇った人たちが…
あらすじ
35回 蘇えりし者たち
徳川家康(阿部サダヲ)は大沢基胤(嶋田久作)に乗っ取られた気賀の堀川城を攻略するにあたり、まずは城内に捕らえられた民を逃がすことを方久(ムロツヨシ)に約束していた。しかし徳川家臣の酒井忠次(みのすけ)はこの約束を破り、大沢への見せしめのため気賀の民を惨殺してしまう。しらせを受けた直虎(柴咲コウ)は気賀に駆けつけるが、そこには瀕死の状態の龍雲丸(柳楽優弥)の姿があった。生死の境をさまよう龍雲丸に懸命の治療を施す直虎。看病のかいあって龍雲丸は一命を取りとめ、胸をなで下ろす。そんななか直虎は、堀川城の戦いで深手を負った近藤(橋本じゅん)の治療を頼まれる。一方、家康は今川氏真(尾上松也)と極秘裏に会い、和睦。氏真は北条に身を寄せることを決め、家康は掛川城に入場。遠江全域を治めることとなる。
今週の雑感
私はなかなか政次の死を乗り越えずにいて、今回涙しながら見たんですが、それでもまだ先に進めないでいます。NHK公式HPにある高橋一生さんの5回に分けたインタビューも読んでおらず、読んでしまったらほんとに政次は終わりなんだと認めないといけないみたいでだめなんです。
今回は、直虎のこの台詞から考えたことをちょっと書いてみます。
龍「尼小僧さまが殺しに来たと思ったのか」
直虎「おかしかったが、哀れでもあった。しかし、戦に勝つというのは、なんなのであろうの。勝ったところで、また戦に駆り出され、声変わりもせぬ跡継ぎが戦に出るという。深手を負い、もう馬にも乗れぬようになる者もある。まことに勝ちなのであろうかの、それは」
このドラマの底に流れる、善悪だけでは物事を量れないという考え。戦に勝つことがほんとの勝ちなのか。
最初から今川から徳川に寝返った鈴木殿が討ち死に、近藤殿は負傷。それなのに最後まで徳川に抗戦していた大沢殿は本領安堵。
何が正解で不正解なのかわからず、暗中模索の中、それぞれがその時に最上と考えたことを選択していくしかない状況。
今までも何回も引用しましたが、13回「城主はつらいよ」でのこのようなやり取りを思い出します。
直虎「私は今まで力がないというのは悔しい事だと思っていました。なれど力を持つというのは実はとても恐い事なのだと。私の決めた事が真となるということは。」和尚「斯様なことに正解などないしのぉ。結果が良ければ正解とされ、そうでなければ間違いとされ、上手くいくかいかぬかは誰も請け負うてはくれぬ。己の信じたものを灯りとし進んでいくしかないのぉ。」直虎「自灯明にございますか。」和尚「自灯明は人の上に立つ者の喜びであり、また辛さでもあろうのぉ。」
正解などない。結果が良ければ正解。悪ければ間違い。だからこそ自分の信じる道を進むほかない… 直虎はこの自灯明をいつもこころに置き、やってきたに違いないですね…
それなのに、政次を失い、気賀を失い、繋がりを大事にしていた龍雲党を失い、直虎のこころに浮かぶ、「勝ち」はほんとうに勝ちなのかという問い。
そこには善悪もなく、勝ち負けもなく、ただあるのは「無常」。直虎の表情を見ていてそう感じてしまいました。
三人の魔女「きれいは穢い、穢いはきれい。さあ、飛んで行こう、霧のなか、汚れた空をかいくぐり」
空即是色、色即是空。
悲劇は喜劇、喜劇は悲劇。
直虎という人物や井伊谷という場所、その周りにいるひとびとの悲喜こもごも。35回を見ていると、ひとの悲しみ喜び恐れ慄き嘆き、全てを見せ、温かく哀しい人生の瞬間を切り取りつつ、ここ最近の悲劇から少しずつ、ぎこちないながらも立ち上がろうとする人々への賛歌が本当に美しいです。
このドラマがどんな含みを持たせて作られているかそれはわからないのですが、政次の辞世の歌に白楽天の隠し文字がある(意図されたものかどうかはわかりませんが)という事だけでも興奮で胸がどきどきしています。思わずNHKにお手紙を送ってしまいました。
白居易という人がどういう人なのか、比翼連理がどういうお話の中で出てきたのかすこおし知りました。それまではあさきゆめみしに出てきた言葉としか認識してなかったんですが… そしてちょうど読んでいた阿吽というマンガに、白居易が出てきて二度びっくり。こうやって繋がりを辿ったり深読みができるって楽しいですね…!!
四神(青龍 白虎 朱雀 玄武)のことも気になります。遠江という土地には山や川、丘陵や湖があり四神相応であるようです。
そして、マクベスついでに、思いを馳せてしまう台詞を。
人の生涯は動きまわる影に過ぎぬ。あわれな役者だ、ほんの自分の出場のときだけ、舞台の上で、みえを切ったり、喚いたり、そしてとどのつまりは消えてなくなる。
Life’s but a walking shadow, a poor player
That struts and frets his hour upon the stage,
And then is heard no more.
直虎と龍雲丸、ふたりが生き残った意味。
無常を肌で感じるふたりの共鳴。
武田が来る。家康にも悲劇が待ち受ける。
政次亡き後直虎がどのようにして虎松にそのバトンを渡すべく奮闘するのか。龍雲丸とはどんな関係になっていくのか。
直之、六左との主従コントで和める日は来るのか。
ようやく笑顔が見れた直虎の行く末を、前のめりになりながら、政次への思いと共に凝視していきます…!!
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