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しの殿の凄みと政次の甘さ ~29回 おんな城主直虎~

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毎回毎回泣かせられます。前回とはまた違う方向からのボディブロー効きます…

 

あらすじ

直虎柴咲コウ)は徳川家康阿部サダヲ)に書状を送り、上杉と同盟を組んで武田の今川攻めの動きを封じ込む策を進言する。いったんはこの策に乗ろうとした家康だったが、時を同じくして武田から今川攻めの誘いが来てしまう。その頃、駿府では寿桂尼浅丘ルリ子)が死の床についていた。松下常慶和田正人)は井伊と徳川の同盟の証として、しの貫地谷しほり)を人質に出すよう要求するが…。直虎からてんまつを告げられたしのは冷静に受け入れるが、母親と離れたくない虎松(寺田心)は直虎にじか談判。さらに、しのを嫁がせなくてもよい方法を懸命に探ろうとする。そんななか、しのは虎松を説き伏せ、嫁いでいく。そのころ駿府では、今川が武田から遠江の割譲を迫られていた。怒りに震える氏真尾上松也)は武田との戦を覚悟し、井伊へも魔の手を伸ばし始める…。

第29回「女たちの挽歌」|あらすじ|NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』

 今週の雑感

「後見をおりられよ」と言っていたあの頃が華でした… 転がり始めた石はもう元通りにはならず。ひたすら転がり続けるのみ。

 

寿桂尼の突然の死も、武田の非情も、徳川の抜け目なさもすべてすべて歴史の表舞台のどうしようもないうねりを感じさせ、井伊という小さい国の存在の儚さを浮かび上がらせるのに十分すぎて、なんだかくらくらしました。

 

大河ドラマは小さい頃から見ているけれど、英傑や教科書に名前が載っているような人物ではない井伊直虎というひととその物語にここまで惹きつけられるのはなぜだろう。

 

自ら信じる目的の為に、できうる限りのことを諦めずにやろうとする主人公とその周りの人物の姿が、けしてその時代固有のものではなく、時を越えてこちらの心に訴えかえてくるからなのか。

 

直虎の

 

道は必ずある

 

には、周りのものに、この主についていきたいと思わせる絶大な言霊が宿る。そして視聴者にもそう訴えているような気がするんです。

 

 

しの殿の凄み

しのは、登場回のときは独りでした。直親と直虎の関係を知っていながら家の為に直親に嫁ぐ。直虎視線で見ていると、しの殿は敵のようなもの。でも、彼女の孤独や寂寥は色濃い。幼馴染の絆の中に割って入ることの辛さはどれほどだったことか…

 

家が決めた縁だと割り切ってこころを消していられればまだ良かったかもしれません。なのに、しの殿は婚儀の最中、直親の見せたキラースマイルに一瞬で恋に落ちたように見えました。

 

愛するひとの中にどうにも消せない女性がいるなんて、辛い、辛すぎる… そこから生じた彼女の鬱屈した思いが直虎へのきつい行動につながり、自刃しようと持ち出した刀を直虎に向ける程、直親への愛は募っていました。

 

子を授かりいよいよと言う時に直親が謀殺され。その亡骸が戻ってきたときに直虎がふらふらと近づこうとしたのを見て、触れてくれるな、と直虎に迫っていました。悲しみはもちろんのこと、直虎への嫉妬とどうしようもない疼きを、俳優さんが鬼気迫る雰囲気で見せてくれたのには震えました。

 

直虎が虎松の後見となってからも、彼女の焦りは消えず、彼女のアイディンティティは唯一虎松の母であるということのように見え、その母である立場を直虎に脅かされて総毛立った猫のように周りに牙をむくしの殿に「たよりを失いますぞ」と助言をしたのが政次でした。

 

その助言もあり、そして虎松の手習いを通し少しずつ変わっていくしの殿と直虎との関係。それが一挙に裏返ったのが、あの「スケコマシ」回でした。

 

 何と呼べばいいのかわからない関係のふたりが、一緒に泣く。もうこの世からいなくなってしまった男なのに、娘だと言って現れた高瀬の笛の音を模したあの一瞬から、存在しない直親のすがたかたちが陽炎のように立ち上り、その圧倒的存在感と今まで見えなかった姿をも浮かび上がらせました。

 

直親へのドロドロした思いや思慕や初恋の甘さ全てが、ふたりで一緒に井戸の中に向かって叫んだあの時に、憑き物が落ちたかのようになくなったんでしょう。そこからのしの殿と直虎はまるで同士のような関係になっていったのだと思います。

 

そして今回。しの殿がまるで直虎の正室のように、全てを理解し、ちくりと説教もしつつ直虎の上をいった名お方様ぶり。虎松への愛も井伊への愛も持ちつつまた独り他家へ嫁いでいきました。

 

しの「虎松にとって良い修行になるのでは、と思いまして。無理難題を己の頭で考えるということは」
 
南渓和尚「じゃが、母を助けられなんだと気落ちするやもしれんぞ」
 
しの「それもまた修行になりましょう。」
 

虎松を跡取りにしてもらわなくて結構、と言い放ったあの時のしの殿が、こうやっていかにして理想の領主に育て上げるかを考える。

 

幼馴染の絆の前に「独りきり」であったしの殿はどこにもいない。直親の最期を虎松に話し、直親の志を自分が継ぐことができることの素晴らしさを説く。しっかりと井伊家に根を下ろし、家のための駒として、人質として生きることを肯定し、虎松の味方を作ってやりたいと泣くしの殿。自分が家のために何かができることを誇りに思っているように見える立派な井伊家のおなごでした。

 

直虎が失う跡取りの母。その跡取りに自分を父と思え、と告げる。そこにも直親が浮かぶ。

 

そして笛。さまざまな場面で不在の直親をそこかしこに存在するものとして象徴的に使われる笛、しの殿が籠の中で聞く虎松の笛に、私も号泣しました。

 

 

甘い政次

政次の存在がどんどん儚くなっていっているように見えるのはあの演出の青い色のせいだろうか…?

 

既に公式や雑誌などでも情報が顕になっていることなのですが、できるだけそこへ繋がるおはなしのいろいろを楽しみたいと思っています(楽しむというのは語弊がありますが…)歴史ものは史実があって、皆が結末を知っていて、でもそこにある面白さというのは、結末に至る流れをどう描いてみせてくれるのか、どんな台詞を言うのか、表情を見せるのか。

 

これまでそれほどドラマには出てこなかった氏真の人物造形の面白さなどもそうですし、政次が史実では妻子がいたということを変えて物語にしていることも、制作側がよりクリアに伝えたいものがあるという証拠でしょう。

 

その制作が見せたいものを見せてもらおう!と思っているところです。

 

 

 

さて。今回の政次に戻ります。

 

この台詞を読んでみてください。松平からの使者が、しの殿を人質にと言ってきた後、

 

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政次「勇み足になってしまいましたな」
 
直虎「あの書状が斯様なことになるとは」
 
政次「今更悔やんでも致し方ございません。
 
言いにくければ、私の方からしの殿にお伝えしましょうか。太守様から下知があったとでも」
 
直虎「我から言う。せめて罵りくらいは受けねばの。直親は草葉の陰で怒っておろうの」

 

直親の名前が出たあと…

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 この台詞を聞いたときに、耳を疑ったんです。

 

政次… 甘すぎないか???あれだけ、殿に覚悟がおありになるか、とか言ってた政次が、自分が代わりに言おうか、などと…

 

ブルブルしました。ダメだ…政次がそんなこと言ってはダメだ… 敵対していたとき、そして師のように直虎を導いていたとき、絶対に直虎を甘やかさず、いつも何が大事で何をせねばならないかを問うてきたのに。

 

そしてその優しさ(のように)みえる政次の提案をちゃんと断る殿ぶり。その対比が鮮明で…

 

27回の気賀獲りの際、龍潭寺での囲碁シーンが3回出てきました。3回目で、直虎が先に席を立ち、政次が黒い碁石と共に残された場面がありました。あれはやはりメタファーのようなものであったのかもなぁ…と。

 

囲碁がドラマにおける大きな象徴だというのは毎回見ていて思うので、それまで単に向かい合って囲碁を指しながら政策について議論をだけだったものをあの動きと黒い碁石をフォーカスしたのには意味があるんだろうと思うのです。

 

直虎が既に政次の助けや導きを必要とする時期の終わり?前を向き自分の意志で突き進む直虎の誕生?そこに取り残された政次はこれからを暗示していたのかな…?

 

この台詞を見ても、政次の取り残され感というのをとても感じるし、直虎はもうそんなところにはいないという寂しささえ漂います…

 

もしそれが政次の愛なんだとしたら、なんだかふたりの間の温度差の違いをどうしても感じてしまう。直虎はそんなところに助けを必要とするおなごではないはず… !!!

 

この政次の甘さ。同士の絆が深ければ深いほど、怖くなります…

 

 

 

最後に、直虎がはっきりと自分の目指すものを言葉にできた瞬間を…!!!

 

我らが望むことは喜びに満ちた日。井伊の目指すところは民百姓一人たりとも殺さぬことじゃ。

 

戦はいやにございます… と描き続けたおんな大河へのアンチテーゼ?挑戦?とも言うべき直虎の台詞。戦はいやだと言葉にせずとも生まれる、生や命への賛歌。この言葉は、これまでの28回を見てきた視聴者が納得する彼女の帰結点でした。

 

そして、ようやく掴んだ目指す道があるにも関わらず、或いはそこに至ったからこそ、周りの大国に翻弄される井伊の波乱と数奇な運命の残酷さをこれから見ることになるのですね…

 

hydrangea.hatenablog.jp

 

 

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お越し下さりありがとうございました。

 

今日はすこし暑さが和らぎました…

 

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